こんにちは、栗場石健一です。介護系のクライアント企業が、これまで作り込んでいたカッコいいイメージ動画(ブランディング動画)を完全にやめ、「ダサい動画」=リアルな現場の様子を切り取った動画に切り替えたところ、採用コストが従来の20分の1にまで激減した事例です。
具体的には、1人あたり約100万円かかっていた採用コストが、数万円レベルにまで削減されました。
中身を変えたのは動画だけ。求人原稿のキャッチコピー、給与条件、サイト構成はそのままです。それでも採用効率が20倍になったという、極めて衝撃的な事例ですね。
ポイントは、「会社のブランドイメージ」ではなく「実際に働いている社員のリアルな日常」を撮影したことにありました。ケアマネジャーとのやり取り、利用者やご家族との会話、現場の空気感──カッコよさは皆無でも、応募者にとっては「この会社で働いたらどうなるか」が一目で伝わる動画です。
カッコいい動画を作ってみたものの…
採用を強化しようとして、まず多くの会社が考えるのが「採用サイトを作り込む」「カッコいい採用動画を制作する」ことです。動画制作会社に数十万円から数百万円を投じて、ドローン撮影、プロのナレーション、洗練された編集が施された「ブランディング動画」を作ります。
「私たちは日本の未来を変える」「人と社会に貢献する」といった理念を掲げ、美しい風景や社員のカッコいい姿をダイジェストで見せる動画──こうしたものは、見た目には立派です。経営者本人も「うちの会社、こんなに素敵に見えるなんて」と満足します。
しかし、いざ求人広告に貼り付けて配信してみても、応募はほとんど増えない。多額の動画制作費を投じたにもかかわらず、採用効率は一向に改善しない──こうした「やった気になる採用施策」で、貴重な予算を無駄にしている中小企業が後を絶ちません。
この事例の介護系クライアントも、当初は同じ状況でした。立派なブランディング動画を作ったものの、応募は増えず、採用コストは1人あたり約100万円という高水準のまま推移していました。
ブランディング動画の弊害
なぜブランディング動画は、中小企業の採用で効果を発揮しないのか。本質的な原因は、「大手企業の採用戦略」を中小企業がそのまま真似てしまっていることにあります。
大手企業の採用において、ブランディング動画には一定の役割があります。新卒採用市場での認知度向上、企業イメージの統一、株主・顧客向けのIR効果──こうした多面的な狙いの中の一つとして、ブランディング動画は機能します。
しかし、中小企業の採用では話が全く違います。中小企業の求人を見ている人は、すでに「この会社、気になる」という関心を持って情報収集している人です。彼らが知りたいのは「この会社のブランドイメージ」ではなく、「自分がこの会社で働いたら、毎日どんな仕事をして、どんな人と関わるのか」という極めて具体的な情報です。
ところが、ブランディング動画は、構造的にこの「働く姿のリアル」を伝えるのが苦手です。
- 美しい映像と感動的なBGMは、現実離れした非日常を演出してしまう
- 「日本の未来を変える」といった抽象的なスローガンは、日常業務とリンクしない
- カッコよく切り取られたシーンは、実際の仕事の地味な部分を覆い隠してしまう
結果として、応募者は動画を見終わっても「で、結局この会社で働くって、どういうことなの?」という疑問が残ったままになります。働く姿がイメージできない求人には、人は応募しません。
つまり、ブランディング動画は「カッコよく見せること」と「応募を増やすこと」を両立できない構造を抱えており、中小企業にとってはむしろ採用の障害になることすらあるのです。
求職者はリアルな現場を見たい
そこで実践されたのが、ブランディング動画を完全にやめて、「リアルな現場動画」に切り替えるという発想転換です。
何を撮ったか→社員の1日密着動画
このクライアントが新たに撮影したのは、社員の1日に密着したドキュメンタリー型の動画でした。具体的に撮影されたシーンは以下のようなものです。
ケアマネジャーとの打ち合わせ風景
利用者の状態について情報共有している様子、ケアプランを確認している様子。「あぁ、こういうやり取りをするんだな」と応募者が一目で理解できるリアルな業務シーン。
利用者・ご家族との会話シーン
実際に介護をしている現場、ご家族と日常的な会話を交わしている様子。「この会社の社員は、お客さんとこんなふうに接しているんだ」が伝わる映像。
休憩時間や事務作業中の様子
派手なシーンではなく、社員同士が雑談している休憩時間、事務作業をしている様子。「職場の空気感」を切り取ったシーン。撮影は高価な機材を使う必要もなく、編集も派手な演出は不要です。ありのままを切り取ることが、唯一にして最大のポイントでした。
なぜ「ダサい動画」が応募を呼び込むのか
カッコよくない、洗練されていない、地味──こうした特徴を持つ「ダサい動画」が、なぜ応募者の心を動かすのか。理由は明確です。
応募を検討している人が知りたいのは、「ここで働いたら、自分は何を手に入れるか」という極めて現実的な情報です。仕事内容、人間関係、職場の雰囲気、一日の流れ──こうした情報が具体的にイメージできるからこそ、「この会社なら働けそうだ」と判断できます。
リアルな動画は、こうした応募者の本当のニーズに直接応えます。カッコよさを犠牲にする代わりに、応募者の意思決定を支える具体性を圧倒的に提供できるのです。
私がいつも繰り返しお伝えしている、「採用の本質はイメージの投影」「会社が言いたいことより、求職者が知りたいこと」という原則と完全に一致する考え方です。動画というメディアにおいても、この原則は変わりません。
「ブランディング動画」と「リアル動画」の違いを整理
両者の違いを表にまとめると、以下のようになります。
ブランディング動画
- 目的:企業イメージの向上、認知度アップ
- 内容:抽象的な理念、美しい映像、感動的なBGM
- 主役:会社、経営者、ブランド
- 視聴後の感想:「すごい会社だな」「カッコいいな」
- 採用効果:極めて限定的
リアル動画(ダサい動画)
- 目的:応募者の意思決定支援
- 内容:具体的な業務、日常の風景、社員の素の表情
- 主役:現場社員、利用者・顧客との関わり
- 視聴後の感想:「ここで働いたら、こんな毎日なんだな」
- 採用効果:応募率を劇的に改善
中小企業の採用では、圧倒的に後者が機能するのです。
採用コストは20分の1に
このリアル動画への切り替えにより、採用コストは従来の100万円から数万円にまで激減しました。実に20分の1という、桁違いの改善です。10人採用すれば、従来1000万円かかっていた採用コストが、数十万円に圧縮される計算になります。中小企業の経営にとって、この差は決定的です。
さらに見過ごせないのは、応募者の質の向上という副次効果です。リアル動画を見て応募してくる人は、「現場の実態を理解した上で、それでも働きたいと思った人」です。介護現場の地味さや大変さも含めて理解した上での応募なので、入社後のミスマッチも激減します。
カッコいいブランディング動画を見て「素敵な会社!」と憧れて応募してきた人は、入社後に現実とのギャップに苦しみ、早期離職することが多い傾向があります。一方、リアル動画を見て「この現場で自分もやってみたい」と納得して応募してきた人は、現実とのギャップが少なく、長く定着する傾向があります。
採用コストの劇的削減と、入社後の定着率向上。この二つを同時に実現できたという点で、極めて完成度の高い採用戦略の事例と言えます。
なぜうまくいったのか?
この事例の成功要因を分析すると、以下の3点に集約されると考えます。
1. 「大手の真似はしない」という戦略的判断
多くの中小企業の経営者は、無意識のうちに大手企業のやり方を真似ようとします。立派な採用サイト、カッコいい動画、洗練されたパンフレット──「ちゃんとした会社」に見せるための投資を、限られた予算の中で頑張ろうとします。
しかし、この事例の本質は、「大手と同じ土俵に立たない」「中小企業ならではの戦い方をする」という戦略的判断にあります。中小企業の強みは、ブランド力やスケール感ではなく、現場の生々しさ、社員一人ひとりの顔が見える距離感です。それを動画で表現することが、最大の差別化になります。
2. 「カッコよさ」を捨てる勇気
経営者にとって、自社の動画が「ダサい」というのは、心理的に受け入れがたいものです。「うちの会社をもっとカッコよく見せたい」という気持ちは、自然な経営感情です。
しかし、この事例の経営者は、「カッコよさ」よりも「採用結果」を優先するという冷徹な判断ができました。応募者が本当に知りたい情報を、応募者が見たい形で提供する。そのためなら「ダサい」と言われても構わない──この覚悟が、第二の分岐点です。
ここには「自社の見栄え」と「採用の成果」のトレードオフを正しく理解する経営判断が求められます。
3. 「リアル=武器」という価値観の転換
多くの中小企業の現場には、派手さも華やかさもありません。介護現場には地味な業務がたくさんあり、製造業の現場には汚れや騒音があり、飲食店の厨房には熱気と慌ただしさがあります。
これらを多くの経営者は「応募者には見せたくないもの」と捉えてしまいがちです。しかし、この事例は、それを「自社の本当の姿として誇りを持って見せるもの」と再定義しました。
応募者は、現場のリアルを見て「自分にも合いそうだ」と判断する人と「自分には合わなさそうだ」と離脱する人に分かれます。後者が事前に離脱してくれるのは、むしろミスマッチ防止という観点で歓迎すべきことです。現場のリアルを隠さないという姿勢が、結果的に質の高い採用に繋がっています。
あなたの会社で実践・応用するためには?
この施策は撮影機材や編集スキルがなくても、明日からスマートフォン一台で始められるということです。むしろ、過剰に作り込まないからこそリアルさが伝わり、効果を発揮します。
応用例1:スマホで撮れる「リアル動画」5パターン
撮影機材は不要です。スマートフォン一台と、撮影に協力してくれる社員数名がいれば、すぐに始められます。中小企業が撮影しやすいリアル動画のパターンは以下の通りです。
パターン1:社員の1日密着
朝の出社から退社まで、ある社員の1日を密着取材形式で撮影します。打ち合わせ風景、業務中の様子、休憩時間の雑談、お客様とのやり取り──自然な日常を切り取ります。
パターン2:現場ツアー
社員自身がスマートフォン片手に、職場を案内する動画です。「ここが事務所です」「これが私の作業デスクです」「向こうは製造ライン」というように、自社の現場を歩きながら紹介します。撮影者の声がそのまま入ることで、自然な臨場感が生まれます。
パターン3:社員インタビュー(ありのまま編集なし)
社員に「入社理由」「仕事のやりがい」「大変なこと」を率直に話してもらいます。台本を作らず、自然な言葉で語ってもらうのがポイント。多少噛んでも、言い直しても、それがリアルさになります。
パターン4:お客様や取引先との関わりシーン
許可を得た上で、実際の顧客対応や取引先との打ち合わせ風景を撮影します。「この会社は、お客様とこういう関係性で仕事をしているんだ」が一目で伝わります。
パターン5:朝礼や社内ミーティング風景
朝礼、定例ミーティング、月次報告会など、社内コミュニケーションの様子をそのまま撮影します。職場の空気感、社員同士の関係性が自然と伝わる強力なコンテンツです。
応用例2:「ダサい動画」を撮る際の3つのルール
リアル動画の効果を最大化するには、以下の3つのルールを守ることが大切です。
ルール1:作り込みすぎない
プロのナレーション、感動的なBGM、派手なテロップ──こうした演出を入れたくなる気持ちをグッと抑えます。テロップは最小限、BGMは控えめ、ナレーションは社員本人の声で十分です。作り込んだ瞬間に「ブランディング動画」に逆戻りしてしまいます。
ルール2:長すぎない
求人媒体やSNSで視聴される動画は、長くても3〜5分程度が適切です。10分を超えると視聴離脱率が一気に上がります。「伝えたいこと」ではなく「応募者が見たいこと」に絞って編集することが重要です。
ルール3:多少の粗さは武器になる
カメラのブレ、音声の聞こえにくさ、編集の粗さ──プロ品質には及ばなくても、それが「ありのまま感」を強めます。むしろ完璧すぎる仕上がりは、「演出されている」と感じさせてしまい逆効果です。
応用例3:撮影できない場合の代替策──「写真+テキスト」でも十分効く
動画の撮影や編集にハードルを感じる場合、写真とテキストの組み合わせでも同じ効果を狙えます。
採用サイトや求人原稿の中に、以下のようなリアルな写真を載せます。
- 実際の社員が業務をしている様子(モデルではなく本物の社員)
- オフィスや現場の風景(美化加工なし)
- 朝礼やランチタイムの様子
- 社員同士が会話している自然な瞬間
そして写真の下に、何をしている場面かを一文で添えます。「月曜朝の打ち合わせ風景。週の業務予定を全員で確認します」「お昼休みの社員食堂。お弁当を食べながら雑談する時間です」──このように具体的な説明があることで、写真がリアルな日常を伝える媒体になります。
撮影機材や編集スキルがゼロでも、スマホで撮った写真と短いテキストだけで、相当な効果を発揮します。
応用例4:「設置場所」と「使い回し」を考える
せっかく作ったリアル動画は、複数の場所で活用することで効果を最大化できます。
設置場所のおすすめ
- 採用サイトのトップページ(最も目立つ位置)
- Indeedの企業ページ
- 募集要項ページの末尾
- 会社案内資料(QRコード経由でアクセス)
- 面接の冒頭(「うちの現場、こんな感じです」と見せる)
- 内定者へのフォロー(入社前の不安解消)
SNSでの活用
YouTubeに公開し、各SNSにシェアします。InstagramやTikTokでは、短く切り出した30秒〜1分の縦動画として再編集することで、媒体特性に合わせた拡散ができます。
一度撮影した素材を、複数の用途で使い回すことで、撮影投資の回収効率が高まります。
応用にあたっての注意点
最後に、リアル動画を活用する際の3つの注意点をお伝えします。
注意点1:出演者の同意は必ず取る
撮影に協力してくれる社員には、事前に動画の使用範囲(採用サイト、SNS、求人媒体など)を説明し、同意を得てください。顧客や取引先が映る場合も、必ず許可を取ります。これを怠るとトラブルの原因になります。
注意点2:過度にネガティブな部分は撮らない
「リアル」とはいえ、社員が疲弊している様子や、職場の雰囲気が悪い瞬間まで撮影するのは逆効果です。応募者を惹きつけるのは「生々しさ」であって「ネガティブさ」ではありません。日常の普通の風景を切り取る、というスタンスが適切です。
注意点3:定期的に撮り直す
社員の入退社、職場のレイアウト変更などにより、動画の内容は時間とともに古くなります。1〜2年ごとに撮影し直すことで、常に「今のリアル」を伝えられる動画として機能させます。
まとめ
中小企業の採用で本当に効くのは、カッコいいブランディング動画ではなく、ダサくてもリアルな現場の様子を切り取った動画です。
最後に次の3点でまとめます。
第一に、大手企業のやり方をそのまま真似ることをやめること。中小企業の強みは、ブランド力ではなく現場の生々しさ、社員の顔が見える距離感です。これを最大限に活かせるのが、リアル動画というメディアです。
第二に、「カッコよさ」よりも「応募者が知りたい情報」を優先する勇気を持つこと。経営者の見栄を捨てて、応募者目線で動画を設計する。この発想転換だけで、採用効率は劇的に変わります。
第三に、完璧を目指さず、まずスマホ撮影から始めること。動画制作会社に発注する必要はありません。スマホで撮影した社員の1日密着動画だけでも、十分に効果を発揮します。明日から撮影を始められる手軽さこそ、この施策の最大の魅力です。
採用動画に多額の費用を投じても効果が出ない、と悩んでいる中小企業の経営者にこそ、ぜひこの「リアル動画」というアプローチを試していただきたいと考えます。今すぐスマートフォンを取り出して、自社の日常を撮るところから始めてみてください。それだけで、半年後の採用コストは大きく変わるはずです。

